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現在の研究計画
 平成18年度の研究計画は下記のとおりです。

 

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I 研究の全体像 〜持続可能な防災政策のあり方の検討〜

我が国の人口は近い将来減少し、これまでのような経済成長は困難となる。国・地方を合わせた借金総額は1000兆円を突破し、地球環境の悪化による温暖化等も現実となりつつある。我が国が今後も持続可能であるためには、社会・経済システムのあり方の根本から問い直されるべき局面に差し掛かっている。一方で科学技術、とりわけ情報技術の飛躍的な進歩は、我々の抱える様々な問題を劇的に解決する可能性も秘めている。
このような社会経済環境の劇的な変化は、防災政策に関して大きなパラダイムシフトを迫っている。例えば住宅の耐震化一つ考えても、今後の人口減少を視野に入れれば、もはや耐震改修を行う必要はなく、既存の耐震住宅ストックですでに十分なのかもしれない。ハード対策に資金を投じることは赤字財政のもとではやや否定的な風潮があるが、それが自然環境を守るための投資にもなるのであれば、むしろ積極的に行うべきなのかもしれない。
これからの社会において、あるべき防災政策の姿とはいったいどのようなものなのであろうか。こうした問題意識のもと、持続可能な社会における「防災政策論」の確立を目指して研究を推進する。
特に本年は、事前対策の考え方を対象とする「リスク・ガバナンスの研究」、直後対応を対象とする「危機に強い行政組織の研究」、そして長期的な復旧・復興を対象とする「持続可能な復興財政制度に関する研究」の3つについて取り組みたい。

II 各論

1.持続可能な復興財政制度に関する研究

【視点・問題意識】
  我が国において復興のための財政制度というのはない。代わりに災害復旧事業について国庫による補助を行い、自治体負担分は起債により充当することを認める災害復旧事業制度、規模が大きい場合には補助率を嵩上げするための激甚災害制度、災害救助のための資金を積み立てる災害救助基金制度、さらに不測の支出を補う特別交付税制度等、いくつかの制度を地方自治体がそれぞれの文脈で使い分けることによって災害復興のための資金を確保している。しかし、このような制度に果たして問題はないのだろうか。
  最も大きな問題は、災害復旧のための財源の負担が将来世代に先送りされるという点である。これには二つの意味がある。第一に、その負担が本当に将来世代が支払い可能なのかどうか、第二に、支払い可能だとしても、それが本当に将来世代が望むものなのかどうか、である。
  こうした観点に立てば、災害復旧のための財源を極力圧縮し、被災者だけでなく、その次の世代の効用を考慮して、効率的な財源利用が求められるが、現行の災害復旧事業は、基本的に被害が発生したものに対して認められるため、効率的だからという理由で全く他の事業に財政資金を投入することまで許すものではない。他方で、こうしたシステムは戦後の長い歳月を経て完成されたシステムであり、それによって強い国土を開発してきたという実績もあり、そうしたニーズのある地域もまだ少なくない。これらのバランスをどのように制度として実現していくかが本研究のねらいである。

【研究内容】
 本研究の内容は次のように構成される。第一に、既存制度の詳細とそれが歴史的に果たしてきた役割についてレビューを行う。阪神・淡路大震災の復興財政についてのレビューはすでに行ったが、既存の制度が何を目的としてどのような経緯で創設されたのか、これまでの災害についてどのような役割を果たしてきたのかを評価する必要性がある。これをふまえ、第二に現在の復興財政制度が、災害時の資金需要リスクをどのように分散させているのかを実証的に明らかにする。特に、災害時の財政負担は(1)自治体の自己保険、(2)他の自治体とのリスクシェア、(3)将来世代への転嫁、のいずれかに分解することが可能であるが、それぞれがどの程度の割合を占めるのか、過去の災害財政データから明らかにする。第三に、こうした復興財政制度を所与とした場合に、次の巨大災害時にどの程度の財政負担が必要となるかを明らかにし、問題の所在を明らかにする。第四に、これらをふまえてあるべき復興財政制度について検討を加える。

【期待される効果とその意義】
  人口減少、ゼロ成長時代における災害復旧・復興制度のあり方について具体的な制度提案に資する研究とな
る。

【平成18年度の計画】
  今年度においては特に第一および第二の点について研究を遂行する。なお、カトリーナ災害の被災地の経済復興状況についてモニタリングを継続する。

2.危機に強い行政組織の研究

【視点・問題意識】
  危機管理組織に関する研究は社会学分野で一部の研究者らによって行われているが行政組織における危機管理のあり方については必ずしも十分な研究が進んでいるとはいいがたい。ICSに関する研究は京都大学防災研究所などが積極的に取り組んでいるが、ICSを動かす前提となる危機管理制度、法体系などについての研究は必ずしも十分ではない。

【研究内容】
  主に政治学・行政学的なアプローチを用いて、米国の災害対応行政のしくみや考え方について調べるとともに、カトリーナ災害によって明らかになった米国防災行政の長短について検証する。その際に、大統領・議会との関係や財政制度との関係、公務員制度との関係など、危機管理体制に大きく影響を与えると思われる説明変数の違いについて考慮し、最終的には我が国に適した危機管理行政システムを提案出来ることを目的とする。なお、この研究においては、対象を自然災害に限定しない。自然災害とテロ災害との担当が分離していること自体、我が国の危機管理行政の特色の一つであるが、その是非も含めて研究を行う。

【期待される効果とその意義】
  我が国の危機管理行政の制度設計に資する議論を提供する。

【平成18年度の計画】
  米国の防災行政およびハリケーン・カトリーナに関する学術論文の文献調査を中心として行う。必要に応じて現地調査を行う。また我が国については国民保護行政と防災行政、厚生労働省系の健康災害行政などにみられる手続きや考え方、根拠法の構成の違いなどを明らかにしながら、我が国の危機管理行政の全体像を把握する。


3.
リスク・ガバナンスに関する研究

【視点・問題意識】
  「減災」という考え方は、災害をゼロにするのではなく、ある程度の被害発生を前提とし、それを許容する、いわゆる「アクセプタブル・リスク」の発想がその前提にある。ところが、どのようなリスクがどの程度「アクセプタブル」なのかは誰が、どうやって決めるべきなのであろうか。
  民主的な意思決定や決定内容の社会的妥当性を尊ぶ立場からすれば、これらの意思決定を科学者だけに任せるわけにはいかない、と主張する。しかしながら、低頻度・高被害型のリスクになればなるほど、人々はそれを数学的リスクに比べて過小評価する傾向があることが明らかになっており、このため市民の選好を基準にすると防災対策が過小となる可能性が高い。そのギャップを埋めるためにリスクコミュニケーションが必要であるという認識もあるが、そもそも人間が数百年に一回の、しかも分散が極めて大きいリスクをバイアス無く認知するとはそもそもどういうことなのだろうか。それは本当に可能なのだろうか。

【研究内容】
  本研究はH. A. Simonによる「限られた合理性(bounded rationality)」の立場に立ち、基本的に人間は低頻度型のリスクに対して数学的に合理的なリスク認知は出来ないという立場に立つ。このような文脈において、社会的に望ましい意思決定の主体とは誰であり、またそれはどのような方法なのかを明らかにする。また、結果の合理性とプロセスの合理性のどちらを探求すべきか、後者であるとすれば、その意思決定の担い手は果たして誰なのであろうかについても考察を加えたい。但し、本研究の問題意識は極めて大きく、数年で結果の出るような問題ではない。それだけに防災分野にとどまることなく、多くの政策分野で共通の関心であると思われる。拙速な結論を出すことなく、広い視点でゆっくりと取り組んでゆきたい。

【期待される効果とその意義】
  防災に関する公共事業の評価は極めて困難であり、災害が発生しなければその便益は確定しないことから、単純な費用便益分析を行うことは出来ない。このための判断指標について検討する。

【平成18年度の計画】
  この問題に関する政治学・経済学・心理学等の文献の調査を行いながら、植田上級研究員が主催する、「西淀川地域再生研究会」などをベースとして、地域社会において、環境リスクや災害リスクをどのように受容し、解決へ向かおうとしているかについて議論し、必要に応じて現地調査等を行う。

 

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