包括的地震防災基金の創設を

現在我が国は地震の活動期に入ったと言われる。今年だけでも震度6強を観測する地震が3回も発生した。さらに近い将来、東海・東南海・南海地震などの発生も確実視されている。地震防災対策は我が国における最重要課題の一つであると言えよう。

その対策の柱の一つは、住宅の耐震化である。阪神・淡路大震災で亡くなった方々の8割以上が、家屋の倒壊によるものであった。このため住宅を耐震化することは、「地震防災の特効薬」として語られることも少なくない。

しかし、耐震化は期待されるほど進んでいない。その原因は様々あるが、やはり費用の問題が大きい。木造住宅一棟を耐震化するためには平均110万円必要だと言われており、ほとんどの国民にとって手軽に取り組める金額ではない。20〜30万円程度の公的助成を行う自治体も現れてきたが、耐震化が必要な家屋は全国で1300万棟もある。公的助成に頼って耐震化を進めることは財政的に全く現実的ではない。

一方で、明日にでも巨大地震が発生して多くの住宅が倒壊した場合、これらの再建をどう支援するのか。万が一の場合の住宅再建支援も阪神・淡路大震災以降認識された重要な課題であり、耐震化が遅々として進まない現状において、その重要性はいまだ失われていない。しかし事後的に住宅被害が補償されるなら、耐震化にわざわざお金を使う人はいなくなってしまうという指摘がある。このため住宅再建支援制度の創設には懐疑的な立場も少なくない。「被災者に優しい社会」を目指せば、「災害に強い社会」が実現できないというわけである。

しかしながら、これら二つの政策課題を二者択一として考えるべきではない。それどころか、両方を組み合わせることによってより強力に我が国の地震防災を進展させることが可能なのである。それを可能とする包括的地震防災基金の創設を提案したい。

この基金には我が国の全世帯が加入し、毎月500円を支払うものとする。そして災害により住宅が全壊した場合、一世帯あたり500万円が支給される。ここまでは普通の共済と同じである。しかし提案制度では、平時に積み立てられた基金の一部を使って、耐震化を希望する世帯に全額補助を行うのである。耐震化が進めば倒壊家屋は少なくなることが期待されるから、基金に資金的余裕が生まれ、さらなる耐震化資金として利用可能となる。

こうした資金循環は地震に強い家を増やす原動力となり得る。筆者らが行ったシミュレーションによれば、50年間でおよそ550万棟の住宅が計算上耐震化されることがわかった。これは我が国で耐震化が必要な住宅の42%に相当し、十分効果が期待できる値である。一方ですべての世帯について災害リスクが一定量保障されるために、巨大災害発生時において被災者の生活再建も容易となることが期待される。まさに一挙両得ではないか。

かように「災害に強い社会」と「被災者に優しい社会」は両立可能である。そしてそのためには多数の国民による相互扶助が不可欠である。阪神・淡路大震災の被災地を復興へと導いたのは義援金やボランティアに代表される人と人との支え合いだった。提案制度はその精神を地震の前から具体化しようというものなのである。

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